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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)7792号 判決

原告

鈴木晴之

ほか二名

被告

梶本泰彦

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告鈴木晴之に対し、三二〇万四四五四円及びうち二六七万四四五四円に対する平成二年一月一三日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告小﨑勝生は、原告鈴木晴之に対し、五〇一万二五七〇円及びうち四一八万二五七〇円に対する平成二年一月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、連帯して原告鈴木佐和・同下瀬里美に対し、各一二七万五九九一円及びこれらに対する平成二年一月一三日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四  被告小﨑勝生は、原告鈴木佐和・同下瀬里美に対し各一九九万九四三一円及びこれらに対する平成二年一月一三日から各支払済みに至るまで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

七  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告鈴木晴之(以下「原告晴之」という。)に対し三一〇八万〇七三五円及びうち二六〇八万〇七三五円に対する平成二年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を、同鈴木佐和(以下「原告佐和」という。)、同下瀬里美に対し(以下「原告下瀬」という。)各一一九〇万五九七七円及びこれらに対する平成二年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、車線変更した原動機付自転車が後続の普通乗用自動車と接触し、その反動で元の車線に進出したところ、同車線の後続の普通乗用自動車と衝突し、右自転車を運転していた主婦が頭蓋骨骨折、脳挫傷、左腓骨骨折、外傷性くも膜下出血の傷害を負い、その後自殺した事故に関し、被害者の夫及び子らが各普通乗用自動車の保有者兼運転者に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七〇九条に基づき、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成元年九月二九日午後九時四〇分ころ

(二) 場所 大阪府茨木市北春日丘四丁目一二番先府道道祖本摂津線南行車線路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 被害者 亡鈴木冨士子(以下「冨士子」という。)運転の原動機付自転車(箕面市お七一四七、以下「冨士子車」という。)

(四) 事故車 被告小﨑勝生(以下「被告小﨑」という。)が運転していた普通乗用自動車(大阪七七さ六〇五三、以下「小﨑車」という。)及び被告梶本泰彦(以下「被告梶本」という。)が運転していた普通乗用自動車(大阪五三る四七四八、以下「梶本車」という。)

(五) 事故態様 車線変更した冨士子車が後続の小﨑車と接触し、その反動で元の車線に押し戻され、同車線の後続車である梶本車と衝突し、冨士子車を運転していた冨士子が負傷し、その後自殺したもの

2  責任原因

被告小﨑及び同梶本は、本件事故当時、それぞれ小﨑車、梶本車を所有し、運転の用に供していたものである。

3  相続

原告晴之は、冨士子の配偶者であり、同佐和、同下瀬はいいずれもその嫡出子であり、冨士子の死亡により、その損害賠償請求権を法定相続分に従い相続した(甲第五号証の一、二)。

4  損害の填補

被告小﨑の保険会社である千代田火災海上保険株式会社は、本件事故による冨士子の治療費として、合計二二万七八五〇円を支払つた。

二  争点

1  免責及び過失相殺

(一) 被告梶本の免責の主張

被告梶本は、先行車のため、冨士子車が本件道路に進入して来たことは認識し得なかつたところ、先行車の左折後、時速五〇キロメートルの速度で走行中、約一五メートル右前方の右側車線を走行していた小﨑車が急制動の措置を講じたのに気付き、さらにその約一秒後、一二ないし一三メートル走行した地点で衝突音を聞いた。しかし、被告梶本は、いかなる事態が起きたのか理解できずにいたところ、突如冨士子車が自車進路前方に進出して来たので、ハンドルを左に切り、急制動の措置を講じたが及ばず、同車と衝突したものである。したがつて、本件事故は、冨士子と被告小﨑に責任があり、被告梶本にとつては、全く回避不可能な事故であつた(なお、梶本車の機能構造上の欠陥の有無と本件事故とは関係がない。)。

被告梶本にとつて車線区分の異なる隣接車線を走行していた小﨑車が急制動の措置をとつたからといつて、自車を急に減速させることは、かえつて追突を誘因するおそれがあり、危険であるから、右において自車を減速させるべき義務はない。

(二) 被告らの過失相殺の主張

冨士子車は、本件事故現場の手前にあるT字型交差点から本件道路に左折進入し、原動機付自転車であるから本来は第一車線の歩道寄りを進行すべきところ、第二車線、第三車線と斜めに横断し、小﨑車の直前に割り込むという無謀な進入をし、右交差点からの進入後、わずか四〇・八メートル走行後、本件事故に遭つている。小﨑車との衝突直前、冨士子車は左に転把するなどの避難措置をとつた形跡が全くなく、同車は、小﨑車のわずか一九・二メートル前方を走行中、同車の進路前方に割り込んだものである。したがつて、本件事故により生じた損害に関し、大幅な過失相殺がされるべきである。

(三) 免責、過失相殺の主張に対する原告らの反論

冨士子車が第三車線を走行している被告小﨑の前方で第一車線から第三車線まで進路変更をして来ていたとすると、遅くとも同車が第二車線に達した付近で同車の進行状況が同被告の視野に入つてきたはずである。本件事故当時は、夜間で、冨士子車は前照灯及び後尾灯を点けて走行していたはずであるから、昼間よりも容易に認識できるはずであつた。ところが、被告小﨑が冨士子車を初めて発見したのは、同車の前部が第三車線に進入した時点である。本件事故同時、被告小﨑の視界を妨げるものはなかつたのであるから、このことは被告小﨑の前方不注視の過失を基礎付けるものである。第一車線には、トレーラーが停車していたのであるから、冨士子車が第二車線を走行するのは当然であり、また、本件道路は転回が禁止されておらず、二段右折のような方法により、反対車線に進入することができないのであるから、反対車線に進路変更して来る車両が存することは通常の予見義務の範囲内である。

被告梶本は、同小﨑が急制動の措置をとつたことを認めた時点で急制動その他の回避措置を講じていれば、本件事故は避け得たにもかかわらず、結果発生の予測が遅れ、適切な措置をとることを怠つた過失がある。

本件では、被告小﨑車の左前部に冨士子車が衝突していることからすると、同被告の制動開始時点における冨士子車の走行位置は小﨑車の左前方第二車線右端当たりであつたはずであり、同時点で被告梶本の視界の中に冨士子車は捉えられていたはずである。それにもかかわらず冨士子車が小﨑車と衝突し、第二車線に弾き出されるまで冨士子車の存在に気付かなかつたというのは、同被告に前方不注視の過失があるものといわざるを得ない。

また、被告らには、制限速度をはるかに上回る速度超過があつたものと考えるのが合理的である。

2  本件事故と冨士子の自殺との因果関係、同事故の寄与率

(一) 原告らの主張

本件事故後、冨士子は、約三か月余りで、本件事故による外傷及びその後遺障害による精神的苦痛が原因となり鬱病となつて自殺した。自殺直前の冨士子のCT検査、脳波検査の結果のみからは、外形上認識可能な器質的障害を認めることはできないが、本件事故により頭部に脳挫傷・外傷性くも膜下出血の傷害を負い、視覚記銘力等の障害、性格変化、自発性欠如という器質性精神的病状が認められ、前記精神的苦痛と相まつて本件自殺の原因となつたものである。

冨士子は、本件事故前、欝病により既往症、治療歴はない。同女は欝病になりやすい傾向を有していたと考えられるが、個人の性格は大きく分ければ欝病傾向と分裂病傾向とに二分されるものであり、同女の性格的傾向は大半の日本人にも当てはまるものであつて、明らかに精神的障害として特定できる程度のものではないから、体質的素因とはいえない。

本件事故後、冨士子が欝病に罹患していることを発見し、適切な治療、指導を受けさせることが困難であり、このことは専門外の医師の診察において同罹患を発見できなかつたことからも明らかである。また、適切な治療を受ければその七〇パーセント以上が治癒するといつても再発の可能性を含むものである。

なお、被告らは、原告晴之が冨士子に対し、店を閉めるよう進言したことが同女を自殺に追いやつたと主張するが、右進言がなくても同女は欝病により自殺していたものと考えられ、右進言は自殺のきつかけを与えただけで因果の流れの中の一事情に過ぎない。

以上から、冨士子には、欝病の体質的素因として通常人にみられないような素因が存しなかつたし、事故から自殺までの期間も短く、欝病の進行がかなり速く、強度なものであつたことから、本件事故の冨士子の自殺への寄与の割合は七〇パーセントを下ることはない。

(二) 被告らの主張

冨士子は、本件事故前、メランコリー親和型という、非常に几帳面で責任感が強く、人に非常に配慮するという模範性のような性格であつた。冨士子は、パン、お菓子、日曜雑貨の販売店の仕事をしていたが、その他、合気道、剣道、弓道、薙刀、囲碁、水泳の習い事に通い、武芸は全て段位を有し、さらに、水墨画、大正琴、民謡を習い、まさに、休む間もなく異常に仕事と趣味に熱中する日々であつた。これは、夫である原告晴之がテレビのデイレクターという超多忙の上、時間も不規則であり、同女と過ごす時間が充分作れず、同女が寂しさに耐えられなかつたためと思われる。冨士子は、本件事故により以前のような活発な活動が出来なくなり、精神的に落込み鬱状態になつていつたが、本件事故がなくても、加齢により無理が利かなくなる時期が来ることは目に見えており、それがたまたま本件事故により早まつたに過ぎない。本件事故後、冨士子の身体的回復は順調であつたのであり、一般人であれば、それに伴い精神的回復も充分行われたはずであるのに、同女の場合精神的回復が遅れたのは固有の性格によることが大きいと思われる。冨士子は、本件事故から約二か月半後の平成元年一二月中旬位から自殺をする危険を常に有する危険な状態となつていた。このような場合、「頑張れ」という言葉は鬱病患者には使つてはいけない言葉であつたのに、原告晴之ら家族は同様の励ましの言葉を言い続け、右家族及び関係税理士が冨士子に対し、冨士子の生活の重要な部分を占めていた前記販売店を閉めるよう述べたことが引き金となり、同女は自殺した。

したがつて、本件事故により冨士子が鬱病となり、自殺したとしても、本件事故の寄与割合は二、三割程度に過ぎない。

3  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  免責、過失相殺

1  事故態様

前記争いのない事実に加え、甲第一号証、乙第一号証、丙第一号証及び被告梶本・同小﨑各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にある南北に通じる片側三車線(幅員合計約九・九メートル)の府道道祖本摂津線路上(以下「本件道路」という。)にある。本件事故現場の北方には、本件道路と東方に通じる道路(以下「交差道路」という。)との信号機により交通整理の行われていないT字型交差点があり、本件道路南行車線の東側には、幅約〇・六メートルの路側帯と幅員約二・六メートルの歩道があり、西側には、幅約〇・六メートルの路側帯、幅約一・五メートルの中央分離帯があり、さらにその西側には北行車線がある。

本件道路は、終日駐車禁止であり、速度は時速六〇キロメートルに規制され、交通は頻繁であり、見通しは良く、路面は平坦でアスファルトで舗装されている。

冨士子は、冨士子車を運転して前記T字型交差点の交差道路を走行し、同交差点手前にある一時停止線で一旦停止した後、左折して本件道路に進入し、前照灯を点灯し、かつ、右折の合図を出しながら、南行車線の東から第一車線目(以下ことわりのない限り、東からの車線番号をいうものとする。)にトレーラーが停止していたところから、同第二車線を南進し、さらに同交差点から約一〇〇メートル南にある中央分離帯の切れ目に行き、そこで北行車線に進入し、北進するため、南行車線の第三車線に進路を変更しようとした(なお、冨士子車が右折の合図を出していたか否かについて、被告小﨑は記憶を有しておらず、同梶本は冨士子車が小﨑車と衝突後自車進路に出てきた時は同合図は出ていなかつたと供述するが、いずれも冨士子車の衝突直前の右折の合図に有無に関する証拠価値に乏しく、一般位、右へ車線変更する場合、右折の合図を出さない場合は稀であると考えられるから、冨士子車は右折の合図を出していたものと推認するのが相当である。)。

被告小﨑は、小﨑車を運転して本件道路南行車線の第三車線を南進し、時速約六〇キロメートルで走行中、第二車線上を走行中の冨士子車が自車線に車線変更しようとしているのを約一九・二メートルに近接して初めて発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、自車左前部を冨士子車に衝突させた。

被告梶本は、梶本車を運転して本件道路南行車線の第二車線を先行車に追従して走行していたが、先行車が前記T字型交差点で左折し交差道路に進入したことから、速度を時速約五〇キロメートルに上げ、南進を続けたところ、第三車線を走行中の小﨑車が右斜め前方一五・四メートルの地点で急制動の措置をとるのを認め、さらに、冨士子車が小﨑車と衝突し、自車進路前方に進出して来るのを認め、ハンドルを左に切りつつ急制動の措置を講じたが及ばず、自車右前部を冨士子車に衝突させ同車を約九・三メートル跳ね飛ばし、転倒させた。

なお、原告らは、小﨑車及び梶本車は、制限速度を超過する速度で走行していたのであり、本件事故後被告らはその旨供述していたと主張する。しかし、両被告本人尋問の結果によれば、本件事故前の速度につき、被告小﨑は時速約六〇キロメートル、同梶本は時速約五〇キロメートルであつたと供述していること、また、本件事故現場に残された両車の制動痕をみると、小﨑車の前輪の制動痕は左約二〇メートル、右約一六・二メートルであり、梶本車の前輪の制動痕は左約一三・三メートル、右約九・六メートルであるところ、アスフアルト乾燥路面の摩擦係数を〇・七とみた場合、制動痕の長さが二〇メートルの場合の制動初速度は時速約六〇キロメートル、一三メートルの場合の制動初速度は時速約四八・五キロメートルとされており、前記両被告の供述に概ね符号していることに照らし、右原告らの主張は採用できない。

2  以上の認定事実によれば、被告小﨑は、冨士子車は本件道路南行車線の第一車線から第二車線へ、さらに第三車線へと向かいつつ、右折の合図を出しながら走行して来ていたのであるから、事前に同車の動静を注視していれば、第三車線へ進入することを予見し、適切な時期に減速、警報器の吹鳴等の事故回避措置をとることができたものと認められる。それにもかかわらず、同被告は、約一九・二メートルに接近するまで、冨士子車の存在自体に気付かなかつたのであり、前方不注視により本件事故を惹起したものというべきであるから、前方不注視等の過失があるといわざるを得ない。また、被告梶本は、T字型交差点の手前までは先行車に遮られ、前方車両の動静を確認することが困難であつたとはいえ、右先行車が同交差点で左折した後は、前方の見通しが良くなつていたであるから、既に右交差点を左折し、本件道路南行車線に進入していた冨士子車を発見することは可能であり、その動静及び右折の合図等を注視していれば、小﨑車が急制動の措置をとつた時点で減速等の事故回避措置をとることができたものと考えられる。しかるに、被告梶本は、冨士子車が小﨑車と衝突し、第二車線に滑走して来るまで冨士子車に気付かず、そのため自車を冨士子車に衝突させたものであるから、前方不注視等の過失があるというべきである(なお、被告梶本の免責の主張は採用できないが、小﨑車の急制動の措置が隣接車線でのものであり、同被告の過失は、隣接車線で衝突した車両が反動で自車線に進出して来たという異常な出来事に関する注意義務違反であることに照らし、被告小﨑の過失と比べると相対的に小さいものというべきである。)。

他方、冨士子にも、前記T字型交差点を左折し、本件道路南行車線を南進するに当たり、右交差点から約一〇〇メートル南方にある中央分離帯の切れ目から同道路北行車線に進入するため、南行車線を第一車線から第二車線へ、第二車線から第三車線へと後続車の有無、動静を十分確認しないまま斜めに走行した過失がある。

以上の過失を比較し、かつ、原動機付自転車は、本来、車両通行帯が三以上設けられている道路においては最も左側の車線を走行すべきであるから、第二車線、第三車線へと進路変更するに当たつては一層の慎重さが必要となること、直進車と車線変更車との関係では直進車が優先車両であることを考慮すると、本件事故の発生に関する冨士子の過失は、大きいものといわざるを得ず、被告小﨑との関係では五割、同梶本との関係では八割の過失があるものと認めるのが相当である。したがつて、過失相殺により、後記本件事故により発生した損害から同割合をそれぞれ減額すべきである。

二  冨士子の自殺と本件事故との因果関係

1  前記争いのない事実に加え、甲第二〇ないし第三二号証及び証人林三郎の証言によると、次の事実が認められる。

冨士子は、昭和一二年六月五日に生まれ、高等学校(生徒会長を務め、成績は上位であつた。)卒業後、阪急百貨店に約一三年間勤務し、その後、自営業を営み、本件事故当時、主婦として家事を行うかたわら、パン、お菓子、日曜雑貨の販売店の仕事をしていた。冨士子は、合気道、剣道、弓道、薙刀、囲碁、水泳の習い事に通い、武芸は全て段位を有し、さらに、水墨画、大正琴、民謡を習つていた。冨士子の本件事故前の性格は、外交的、行動的、温和、従順であり、几帳面で、熱中し易く、頑固であり、人に気をつかい、相手の立場を良く理解し、配慮するというものであつた。家族構成は、長女である原告下瀬は既に結婚して別居しており、次女の原告佐和、夫の同晴之、母親との四人暮しであつた。原告晴之は、テレビ会社の製作局次長であり、仕事の性質上、帰宅しないことも多かつた。冨士子は、精神病、神経症等の遺伝的素因は認められず、既往症も特記すべき病気に罹患したことはなかつた。

冨士子は、平成元年九月二九日、本件事故により、後頭骨陥凹骨折、外傷性くも膜下出血、脳挫傷血腫、左腓骨骨折及び左下腿・左顔面打撲の傷害を受け、大阪府立千里救命救急センター(以下「救急センター」という。)に搬送され、入院した。その後、冨士子は、同年一〇月一四日まで救急センターに入院(合計一六日)し、同月一五日から同年一一月八日まで同病院に通院(実通院日数四日)し、その他、自殺の前日である平成二年一月一一日までの間、尾尻外科(実通院日数一六日)、協和会病院(実通院日数六日)、兵庫医科大学病院(実通院日数三日)、それぞれ通院し、治療を受けた。

冨士子が救急センターに入院した直後の同女の意識レベルは、Ⅲ―2で、呼びかけに対し反応を示さず、右共同偏視、中枢神経の損傷を示す病的反射が認められた。冨士子は、やがて、呼びかけに応じ返答するが、呂律が回らず、住所、名前を正確に答えられないという状態(Ⅱ―1)となり、翌九月三〇日、ようやく会話がスムースにできるようになつた。しかし、冨士子には、健忘、見当識障害(時間、場所、人物の認識に障害があること)、頭痛、めまい、吐き気がみられ、同年一〇月一四日の退院時にも健忘、仮眠、動作緩慢が見られた。

同月下旬頃、冨士子は、健忘、構音障害(呂律が回らず、何を話しているのかが分からない状態)、軽度歩行失調、びまん性α波(α波が脳全部に出ていること)を示す異常脳波所見(脳機能低下を示す所見)が認められている(なお、この脳波の所見は、その後自殺直前まで一貫して続いている。)。もつとも、構音障害は、常時ではなく、健忘も事故時の出来事についての記憶障害はあるが、全体としての記憶障害は認められていない。

冨士子は、その後、頭痛、頭重感、左眼痛、鼻痛、左ふくらはぎ痛などを訴え、さらに、舌痛、味覚障害、無臭症などの症状が出、平衡感覚異常によりしばしばふらつき、転倒している。

冨士子は、同月下旬ないし同年一一月上旬の日記において、「つい弱気になる」「自分が駄目だ」「人に否定する程元気がない」「気がだんだんすぼんで来る」等、自信欠如、活力低下、気分の沈滞等の抑鬱感があること、「自分の疲れを人が気がつかない」「人とつき合うのがしんどい」「何でもないと強がりを言う」「自分のことだけ言つてしまう」「一人になると緊張感がなくなり、疲れが出て身体のあちこちが痛む」等、対人関係にみられる緊張、易疲労性、状況依存的身体痛(一人になると緊張感がなくなり身体のあちこちが痛むこと)、孤立感、孤独感他者への配慮とそれに伴う虚勢、自己矛盾、反省があること、「色々と考えられない」「字も書けない」「計算もできない」「気と気の連携が出来ない」等、思考障害・注意障害及び「何でもできるつもりができない」等行動障害が生じていることを種々書き連ねている。

同月中旬ないし同月下旬、冨士子は、不安、焦燥、行動障害等から自暴自棄となり、ひつくり返り手足をばたばたさせるような事故前には見られなかつた行動異常を示し、かつ、日記において、「朝起きが出来ない」など覚醒障害が生じていること、「足が雲を踏むようである」「悲しくないのに目から涙がぼろぼろこぼれる」と離人症体験(自分で自分が感じられなくなる状態)、悲哀体験が混然となつて生じていること、「医師もどうしていいか分からないらしい」と医師に対する不信感が生じていることを記載している。

同年一二月中旬、冨士子は、易疲労感、抑鬱状態にあり、客も来店せず、店を閉め、それ以降、開店せず、同月一二日以降、日記も中止している。

同月二五日、冨士子は、兵庫医科大学脳外科幸地医師の診察を受け、翌二六日、心理テストを受けたところ、WAIS知能テスト(IQ)では、言語性知能指数一〇二、動作性知能指数一〇四、総合一〇四であり、知能障害が認められないこと、記銘力テストでは、対話記銘力に障害が認められず、視覚記銘力に障害があること(もつとも、この結果は異常であり、富士子の同テストへの非協力、拒否的、易疲労的態度の反映とみる余地がある。)、ロールシヤツハ、バウムテストでは、抑鬱気分、それに伴う思考制止(抑制)、行動制止(抑制)、意欲・自発性の減退、不安・焦燥感、自己不全感、自己卑少化、幼児的精神退行が認められ、現実から退却し、引きこもりつつも、本来の性格である他者への配慮する傾向から人間関係に過敏となり、身体痛などの身体症状により心気症的になる程度悩まされていることがそれぞれ認められている。

同月下旬、冨士子は、ヒステリツクになり、寝転び、手足をばたつかせ、「死んでしまつたほうがいい」と述べ、絶望状態、ジレンマ、抑鬱者に見られる希死念慮を示し、その後平成二年正月、一転して原告晴之に対し、自ら努力し、頑張ると笑顔を見せ、話していたが、同年一月一二日午前、税理士が店をやめてはどうかと勧めたところ、同女の態度、顔つきは急変し、同日午後、自殺を決行した。

兵庫医科大学精神神経科助教授である医師林三郎の鑑定書(甲第三〇号証)及び同証人の証言によれば、冨士子は、本件事故前、健康であり、鬱病の遺伝負因も認められず、非常に几帳面で、真面目で責任感が強く、人に気を使い、配慮し、秩序をきちんと守るという模範生のような性格、すなわち、鬱病になりやすい性格とされているメランコリー親和型に近い人物であつたところ、同事故による頭部外傷に基づく脳機能低下により、抑鬱気分、思考・行動制止、不安、焦燥、気分の日内変動、無力感、絶望感、抑鬱状態に伴う身体症状の増大、易疲労性、睡眠障害、食欲障害の持続、さらに、他者への配慮と、矛盾・ジレンマとが希死念慮へと発展し、自殺したものであり、同女の病状は、頭部外傷に基づく脳機能低下及び頭部外傷後遺症として発現した頭部外傷性鬱病であり、その結果自殺したものとされている。

同証人は、冨士子の性格について、鬱病になりやすい傾向にはあるが、鬱病になりやすい典型的性格とまではいえず、加齢による更年期障害等の要因も加わつている可能性もあるが、鬱病なつた原因の半分以上は本件事故による脳機能の低下等にあると考えられる旨証言している。

2  右認定事実によれば、冨士子は、本件事故前、健康であり、鬱病の遺伝負因も存しなかつたが、同事故による頭部外傷による脳機能の低下により、抑鬱気分、思考・行動制止、不安、焦燥、気分の日内変動、無力感、絶望感、抑鬱状態に伴う身体症状の増大、易疲労性、睡眠障害、食欲障害の持続、さらに、他者への配慮と、矛盾・ジレンマとが鬱病の発症とその程度の進行、希死念慮へと発展し、自殺したものであり、本件事故と右自殺とは相当因果関係があるものと認められる。

しかしながら、他方、頭部外傷を契機にしたとはいえ、平成元年一二月二五日の心理テストにおいては、知能障害、記銘力障害等は認められず、頭部外傷に基づく器質的障害自体が鬱病及び自殺の直接的原因となつたものではないこと、富士子の年齢(更年期)と生来の性格的素因(メランコリー親和型)により、抑鬱気分、思考・行動制止、不安、焦燥、気分の日内変動、無力感、絶望感がより強く生じ、抑鬱状態となり、右状態による精神的・肉体的苦痛が右症状を一層増幅させたこと、家族による右事態の正確な認識と精神科に相談し、治療を受けるなどの適切な対応がなかつたために、希死念慮が生じ、自殺に至つたことがそれぞれ認められる。

かかる場合、冨士子の自殺による損害の全てを被告らに負担させるのは、損害の公平な分担を旨とする損害賠償制度の理念に照らし相当ではないから、過失相殺の規定を類推し、後記冨士子の死亡により発生した損害から相応の割合を減額するのが相当である。

そして、右認定事実に加え、前記林証人が、冨士子の性格について、鬱病になりやすい傾向にはあるが、鬱病になりやすい典型的性格とまではいえないこと、加齢による更年期障害等の要因も鬱病の原因となつている可能性があること、しかし、鬱病となつた原因の半分以上は本件事故による脳機能の低下等にあると考えられる旨各証言していることを考慮すると、冨士子が鬱病となり自殺した原因のうち本件事故以外の要因に起因する割合は四割を超えない(六割が本件事故が原因)と認めるのが相当である。したがつて、後記冨士子の死亡により発生した損害のうち、同割合を減額するのが相当である。

三  損害

1  冨士子に生じた損害

(一) 本件事故による傷害及び物損に関する損害

(1) 治療費(主張額二三万四二五〇円)

甲第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証によれば、冨士子は、本件事故による傷害の治療のため、大阪府千里救急センター、尾尻外科、協和会病院、兵庫医科大学病院へ入通院し、合計二三万四二五〇円の治療費を負担したことが認められる。

(2) 付添看護費(主張額八万円)

原告らは、冨士子の一六日間の入院中、原告らが付き添いしたところ、同損害は一日当たり五〇〇〇円、合計八万円に相当する旨主張する。しかし、かかる付添いの事実及びその必要性・相当性を認めるに足る的確な証拠はない。

(3) 入院雑費(主張額一万九二〇〇円)

前記認定のとおり、冨士子は、救急センターに一六日間入院したものと認められるところ、右入院中、雑費として少なくとも原告ら主張の一日当たり一二〇〇円が必要であつたものと推認するのが相当である。したがつて、冨士子は、その間の入院雑費として、一万九二〇〇円を負担したものと認められる。

(4) 通院交通費(主張額一七万四七九〇円)

前記認定のとおり、冨士子は、本件事故により、平成元年九月二九日から同年一〇月一四日まで救急センターに入院(合計一六日)し、同月一五日から同年一一月八日まで同病院に通院(実通院日数四日)し、その他、自殺の前日である平成二年一月一一日までの間、尾尻外科(実通院日数一六日)、協和会病院(実通院日数六日)、兵庫医科大学病院(実通院日数三日)、それぞれ通院し、治療を受けたことが認められるところ、甲第一一号証の一ないし八、一〇及び弁論の全趣旨によれば、冨士子は、救急センターへの通院に際し合計三万五一四〇円、協和会病院への通院に際し合計七万八〇〇〇円、兵庫医科大学病院への通院に際し合計六万一六五〇円、少なくとも合計一七万四七九〇円のタクシー代を負担したものと推認される。前記治療・症状経過に照らし、かかるタクシーによる通院は必要かつ相当であつたものと認められるから、右損害と本件事故とは相当因果関係があるものと認められる(なお、林証人の証言中には、医学的には必ずしもタクシーによる通院を必要としないとの証言部分が存するが、前記症状の経過に照らすと、社会通念上、かかるタクシー利用は必要であつたものと認めるのが相当である。)。

(5) 付添交通費(主張額七万一一一〇円)

原告らは、冨士子が救急センターに入院した時の家族の付添のための交通費として合計七万一一一〇円を負担した旨主張し、その証拠として甲第一二号証の一ないし八の領収書を提出する。しかし、前記認定のとおり、かかる付添いの事実及びその必要性、相当性を認めるに足る的確な証拠がないから、右主張は採用できない。

(6) 休業損害(主張額八七万三二五五円)

前記認定のとおり、冨士子は、高卒の女子であり、死亡当時、五二歳の主婦であり、家事労働に従事するかたわら、パン、菓子、日曜雑貨等の販売店を経営する者であつたところ、本件事故の年である平成元年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・旧中新高卒・女子労働者の五〇歳から五四歳までの平均賃金が三〇三万五六〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実であるから、同女の本件事故当時の家事労働を含む労働能力を金銭的に評価すると、右金額を下まわらないものと推認するのが相当である。

前記治療・症状経過に照らすと、冨士子は、本件事故後、自殺の前日の平成二年一月一一日までの一〇五間、労働能力を完全に喪失していたものと認めるのが相当であるから、この間の休業損害を算定すると、次の算式のとおり、八七万三二五四円(一円未満切り捨て、以下同じ)となる。

3035600÷365×105=873254

(7) 傷害慰謝料(主張額一五〇万円)

前記認定のとおり、冨士子は、本件事故により、平成元年九月二九日から同年一〇月一四日まで救急センターに入院(合計一六日)し、同月一五日から同年一一月八日まで同病院に通院(実通院日数四日)し、その他、自殺の前日である平成二年一月一一日までの間、尾尻外科(実通院日数一六日)、協和会病院(実通院日数六日)、兵庫医科大学病院(実通院日数三日)、それぞれ通院し、治療を受けたことが認められるところ、この間、前記症状経過のとおり、最終的には死を決意する程の著しい精神的・肉体的に苛まれていたことを考慮すると、傷害慰謝料としては、一二〇万円が相当と認められる。

(8) 冨士子車修理費等(主張額一五万七五九〇円)

甲第一三号証及び弁論の全趣旨によると、冨士子は、冨士子車の修理費等として合計一五万七五九〇円を負担したものと推認される。

(9) 小計

以上(1)ないし(8)の損害を加算すると、冨士子の傷害による損害合計額は二六五万九〇八四円となる。

(二) 冨士子の死亡による逸失利益(主張額二四五一万三七一五円)及び寄与率減額

前記認定のとおり、冨士子は本件事故当時の労働能力は、年収三〇三万五六〇〇円に相当すると認められるところ、同女は、満六七歳まで稼働し得たと推認するのが相当であり、主婦であることを考慮し生活費控除を四割とみて、ホフマン方式を採用して、本件事故当時の逸失利益の現価を算定すると、次の算式のとおり、一九九九万九九八九円となる。

3035600×(1-0.4)×10.9808=19999989

前記認定のとおり、冨士子の死亡による損害のうち、本件事故以外の原因に寄与するものが四割とみるのが相当であるから、同割合を減額すると、残額は、一一九九万九九九三円となる。

(三) 過失相殺、損益相殺及び相続

右(一)、(二)の損害を合計すると、一四六五万九〇七七円となるところ、前記認定のとおり、過失相殺により、被告小﨑についてその五割を、同梶本についてその八割を減額するのが相当であるから、各減額すると、残額は、被告小﨑に対し七三二万九五三八円、同梶本に対し二九三万一八一五円となる。

前記認定のとおり、本件事故により生じた損害に関し治療費等として二二万七八五〇円が填補されたことは当事者間に争いがないから、損益相殺により同額を控除すると、冨士子の損害合計の各残額は、被告小﨑に対し七一〇万一六八八円、同梶本に対し二七〇万三九六五円となる。

前記認定のとおり、原告晴之は冨士子の配偶者として、同佐和・同下瀬は同じく嫡出子として、それぞれ冨士子の損害賠償請求権を法定相続分に応じ相続しているから、原告晴之の相続した損害賠償請求権は、被告小﨑に対し三五五万〇八四四円、同梶本に対し一三五万一九八二円となり、原告佐和・同下瀬の右損害賠償請求権は、被告小﨑に対し一七七万五四二二円、同梶本に対し六七万五九九一円となる。

2  原告らの固有の損害

(一) 原告晴之の損害

(1) 固有の慰謝料(主張額一〇〇〇万円)

本件事故の態様、冨士子の受傷内容と自殺に至る経過、同女の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、原告晴之の固有の慰謝料としては、一〇〇〇万円が相当と認める。

(2) 葬儀費用、仏壇・石碑購入費(主張額二二五万六四二〇円)

本件に現れた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用、仏壇購入費等としては、一〇〇万円が相当と認める。

(3) 診断書作成費(主張額一万二三六〇円)

甲第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告晴之は、救急センター、兵庫医科大学病院、協和会病院に関する診断書等の作成費として、合計一万二三六〇円を負担したことが認められる。

(4) 寄与率減額、過失相殺、損害合計

(1)、(2)の合計は、一一〇〇万円となるところ、前記認定のとおり、冨士子の死亡による損害のうち、本件事故以外の原因に寄与するものが四割とみるのが相当であるから、同割合を減額すると、残額合計は、六六〇万円となる。

右残額合計に(3)を加算すると、合計は六六一万二三六〇円となるところ、前記認定のとおり、過失相殺により、被告小﨑についてその五割を、同梶本についてそのは八割を減額するのが相当であるから、各減額すると、原告晴之の固有の損害の残額は、被告小﨑に対し三三〇万六一八〇円、同梶本に対し一三二万二四七二円となる。

(二) 原告佐和・同下瀬の固有の慰謝料(主張額各五〇〇万円)と寄与率減額、過失相殺

本件事故の態様、冨士子の受傷内容と自殺に至る経過、同女の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、右原告らの固有の慰謝料としては、各五〇〇万円が相当と認める。

前記認定のとおり、冨士子の死亡による損害のうち、本件事故以外の原因に寄与するものが四割とみるのが相当であるから、同割合を減額すると、残額合計は、各三〇〇万円となる。

前記認定のとおり、過失相殺により、被告小﨑についてその五割を、同梶本についてその八割を減額するのが相当であるから、右三〇〇万円につき各減額すると、残額は、被告小﨑に対し各一五〇万円、同梶本に対し各六〇万円となる。

3  各原告の損害合計

(一) 原告晴之の損害

前記認定の本件事故による原告晴之の損害合計は、相続分、自己固有分を合せ、被告小﨑に対し六八五万七〇二四円、同梶本に対し二六七万四四五四円となる。

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は被告小﨑との関係で七〇万円、同梶本との関係で二七万円が相当と認める。また、後記原告佐和・同下瀬の認容額その他諸般の事情を考慮すると、両原告に関する本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、被告小﨑との関係で各三三万円(合計六六万円)、同梶本との関係で各一三万円(合計二六万円)が相当と認める。弁論の全趣旨によれば、原告晴之は、これら弁護士費用を全て負担したことが認められるから、同原告の弁護士費用としての損害は、被告小﨑との関係で一三六万円、同梶本との関係で五三万円となる。

前記損害合計に右弁護士費用を加えると、原告晴之の損害合計は被告小﨑に対し八二一万七〇二四円、同梶本に対し三二〇万四四五四円となる(以上のうち、三二〇万四四五四円の限度で連帯債務、両者の差額である五〇一万二五七〇円について被告小﨑の単独債務)。

(二) 原告佐和・同下瀬の損害

前記認定の本件事故による原告佐和・同下瀬の損害合計は、相続分、自己固有分を合せ、被告小﨑との関係で各三二七万五四二二円、同梶本との関係で各一二七万五九九一円となる(以上のうち、一二七万五九九一円の限度で連帯債務、両車の差額である一九九万九四三一円について被告小﨑の単独債務)。

四  まとめ

以上の次第で、原告晴之の請求は、被告らに対し連帯して三二〇万四四五四円及びうち弁護士費用を除く二六七万四四五四円に対する冨士子の自殺の日の翌日である平成二年一月一三日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、被告小﨑に対し五〇一万二五七〇円及びうち弁護士費用を除く四一八万二五七〇円に対する冨士子の自殺の日の翌日である平成二年一月一三日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、原告佐和・同下瀬の請求は、被告らに対し連帯して一二七万五九九一円、被告小﨑に対し一九九万九四三一円及びこれらに対する冨士子の自殺の日の翌日である平成二年一月一三日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

別紙 〈省略〉

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